リトミックは音楽を楽しみながら生きる力の基礎を学べる教育

人気がある子どもの習い事と言えば、スポーツ系ではサッカーや水泳。文科系では英語やピアノが定番です。子どもの習い事には、それぞれのスキルを身に付けるだけではなくいろいろな体験を積むこと、自信や自己肯定感を育むことなどさまざまな効果が期待できます。

 

今回ご紹介する「リトミック」は音楽教育の1つですが、音楽のみにとどまらず子どもが本来持っている“潜在能力”の発達を促し、たくさんの能力を引き出すことができる教育です。リトミックの魅力や効果について、ぜひ理解を深めてください。

 

リトミックとは

リトミックとは、スイスの音楽教育家であり作曲家のエミール・ジャック=ダルクローズ(Emile Jaques‐Dalcroze 1865~1950)が考えだした音楽教育法です。音楽を学ぶものですが、楽器の演奏法を学んだり楽譜を使ったり理論を教えるのではなく、身体を使って体験するということが特徴です。ピアノの音に合わせて挨拶や返事をしたり、身近な動物や食べ物、動作などの模倣遊びをしたりすることで、強弱やテンポ、音の高低などの音楽のニュアンスを自然に身体で覚えていきます。

音楽が苦手な子にとっては楽譜を使ったり理論を教えたりしようとしても難しいですが、音に合わせて楽しく活動しているうちにいつのまにか身体で理解することができているのがリトミックです。

リトミックを“ダンス”や“お遊戯”のようなものだと思っている人も多くいますが、リトミックとダンスは異なります。ダンスや遊戯は1つの曲に合わせてみんなが同じ動きをするのに対し、リトミックは自由なのが大きな違いです。リトミックにもダンスする活動はありますが、人前で発表するための踊りではなくリズムや拍子などを身体で感じて理解します。また、リトミックでは曲が即興的に変化し曲の変化を聴き分けて動きも変化させるというような活動があり、みんなが決まった動きをするのではなく音楽を聴いて自分が感じたことを自由に表現するというような活動もたくさん行うのです。

 

リトミックの効果とは?

リトミックで身に付くさまざまな能力を、主な活動内容とともにご紹介します。

【即時反応】

集中力・反射神経・我慢する力・判断力・思考力・実行力・行動力

リトミックには、“即時反応”と呼ばれる活動があります。即時反応とは、言葉通り“音に即座に反応する”ということです。「ピアノに合わせて歩き、ピアノが止まったらすぐ止まる」「ピアノが速くなったら走り出す」などの活動があり、子ども達はいつ止まるかわからないドキドキ感を楽しみながら音が止まったら自分もすぐに止まることができるように集中してピアノの音を聴くため集中力が養われます。音が止まったらすぐ止まることで反射神経が伸び、まだまだ歩きたくても音が止まったから止まることで我慢する力も育まれるでしょう。

 

そのほかにも、即時反応はさまざまな形に応用ができ、「高い音が鳴ったら上に向かってジャンプする」「低い音が聴こえたら床に手をつく」などの活動を通して音の高低を理解します。ほかにも、「ピアノがいろいろなリズムパターンを演奏し、そのリズムパターンに合わせてステップし、リズムが変わったら即座にステップを変えるだけではなく進む方向も変える」「途中で音楽の拍子が変わったら同じように変えることで、拍子を感じて理解する」など、集中して音を聴いたり動作したりすることで音楽の理解が深まるのです。同時に、「○○の音が聴こえたら○○をする」ということを言葉の指示ではなく、自分で「音を聴き分ける」「音の種類を判断する」「動作を考える」「実行する」という段階を全て1人で行うため、判断力思考力、そして行動に移すことで実行力行動力の基礎も培われていくでしょう。

 

【模倣遊び】

表現力・想像力

 

リトミックには模倣遊びを通して音楽のニュアンスなどを体験し、学ぶ活動が数多くあります。

動物の模倣遊び

音符の種類を体験し、理解する活動です。リスやネズミなどの小動物の速い動き→八分音符(走る速さ)、ウサギやタヌキなど跳んだりお腹の太鼓を叩いたりする動き→四分音符(歩く速さ)、ゾウやクマなどの大きな動物の動き→二分音符(ゆったりとした速さ)をピアノに合わせて楽しむことで、3つの音符の長さを身体で理解します。

 

乗り物の模倣遊び

自動車、バス、電車、遊園地など身近な乗り物の模倣遊びを行い、ピアノに合わせて動くことで速度の変化(段々速く、段々遅く)を体験したり、カーブ、ガタガタ道、トンネルなどいろいろな動作を楽しんだりできる活動です。

 

動作の模倣遊び

お茶を運んだりテーブルを拭いたりするお手伝い、アイロンや洗濯機などの電化製品、大工さんや靴屋さんなどのお仕事、おにぎり、サンドイッチ、ケーキ作りなどのお料理などさまざまな動作の模倣を楽しみながら、音符や拍子の違い、リズムパターン、音の高低など音楽のニュアンスをたくさん体験します。

 

模倣遊びは、自分の中で動物や乗り物、動作のイメージを広げることで想像力を育むことが可能です。そして、表現の仕方は自由なので、みんなが同じ動作をするのではなく自分が好きな動作を自由に表現することで表現力も伸びていきっます。

【グループ活動】

社会性(コミュニケーション能力)・協調性

 

低年齢の子どもは親子一緒にリトミックに参加し、親子でたくさんふれあうことで絆が深まります。子どもだけで参加できる年齢になると、2人組や3人組を作ったり全員で輪になったりして行う活動もたくさんあるため、仲がよい子同士に限らず近くにいる友だちと手をつないだりパートナーを交替しながら行ったりします。そのため、いろいろな子ども同士でふれあうことができるのが利点です。そして、一緒に活動することで、相手に合わせたり協力し合ったりできるようになり、社会性協調性が伸びていくでしょう。

まとめ

リトミックの1番の目的は“体験して学ぶこと”です。決して上手にできるようになることが目的ではありません。音楽が好きな子や得意な子はどんどん音楽的力が伸びていきますが、苦手な子も音楽の楽しさを感じ、少しずつ音楽の力が身についていくでしょう。そして、音楽以外のさまざまな力も同時に育まれていくのです。

 

リトミックの“即時反応”をたくさん体験することで、“即興力”が身に付きます。リトミックで培われる即興力は、突然の事態にも慌てず臨機応変に対応できる力に通じるため、生きるために必要な力の基礎が培われるのもメリットです。